福岡地方裁判所 昭和45年(わ)128号 判決 1974年10月04日
本籍
北九州市戸畑区浅生三丁目一九六番地
住居
北九州市戸畑区浅生三丁目二番二〇号
職業
会社役員
岩田春已
昭和六年三月五日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官古川純生出席のうえ審理して、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役六月および罰金六、〇〇〇、〇〇〇円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金六〇、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
ただし、この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。
別紙第一
修正貸借対照表
小林貞
昭和45年12月31日
<省略>
別紙第二
修正貸借対照表
小林貞
昭和46年12月31日
<省略>
別紙第三
税額計算書
昭和45年
<省略>
税額計算書
昭和46年
<省略>
訴訟費用は全部、被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、昭和四一年当時、北九州市戸畑区金原町八丁目四番地の一に住所を有していた者である。
ところで、被告人は、高等小学校を卒業して大工職人の許に弟子入りし、大工職人として独立したのち、土木建築業を営むようになり、次第に仕事の手を拡げるにしたがつて対外的な信用上会社名義を必要とするようになつたところから、昭和二八年五月ごろ登記簿上の手続のみによつて福岡県戸畑市(現北九州市戸畑区)内で大岩建設株式会社を設立し、その後は事実上倒産しては再起するということを繰り返えし、そのたびごとに右会社の商号を岩田建設株式会社(昭和二九年)、東海建設株式会社(昭和三二年)、岩田建設株式会社(昭和三六年)と変更して、会社名義のみは登記簿上存続させていた。そして、被告人は、折から自己の事業が事実上倒産状態にあつた昭和三六年ごろ同業者の隆建設工業株式会社を営む原田隆一と知り合い、同年末ごろから同社の商号を東海建設工業株式会社と変更し、右原田とともに同社の代表取締役となつて同社の経営にあたつていたが、同社も昭和三八年初ごろ手形のいわゆる不渡りを出すに至り、そのため同社の債権者らと話合いの結果、同社はその一部門であつた給配水管工事を業とする会社として残ることとなり、一方、同社の負う四千万円余りの債務は被告人が個人的に負担し、その代りに被告人が右債権者らの援助を受けて同社とは別個に土木建築関係の事業を営むこととなつた。そこで、被告人は、その後は右東海建設工業株式会社の代表取締役としてその給配水管工事業の経営にあたるとともに、同社とは全く別個に自己の計算において、自己の個人名義、前記のように名目上存在する岩田建設株式会社、また、右のように土木建築関係の事業は廃止している東海建設工業株式会社、さらには昭和四一年六月に自己の使用人を名目上の代表取締役として設立登記手続をした株式会社岩田建設相互住宅の各名義等を時に応じて使つて、宅地の造成分譲、建売住宅の建築販売、土木建築の請負などの事業を営み、さらにこれが成功して次第に大きな収益を上げるようになるや、自家用材料の製造にあたつていたブロツク製造部門および建具製造部門を拡張して関西ブロツク工業および三鷹産業の名でブロツクおよび建具の製造販売業を営み、併わせて、ホテルやアパートを建てたり購入したりしてホテル業や貸アパート業をも営むようになつた。
被告人は、こうして自己の事業が順調に発展した結果多くの収入を得るようになつたが、前記のように個人的に支払いを約した東海建設工業株式会社の債務の支払いなどに追われてなお十分な蓄積ができなかつたところから、昭和四一年分の所得税を免れようと企て、昭和四一年一月一日から同年一二月三一日までの間に、別紙(一)各事業およびこれによる所得金額一覧表記載の事業所得計四〇、七四八、八〇〇円、別紙(二)貸アパート業等およびこれによる所得金額一覧表記載の不動産所得計三、三一八、二六六円ならびに別紙(三)その他の所得金額一覧表記載の給与所得等計六〇二、四〇〇円の合計四四、六六九、四六六円の総所得があつて、これに対する所得税額が二四、七九九、六九〇円であるのにかかわらず、従来から右各事業の経理について正規の会計帳簿類を備えず被告人の妻らの作成したメモなどによつてこれを処理したり、あるいは、預貯金等の大部分を架空名義にし、また、貸アパート等の貸主名義を自己の使用人の名義にしたりして、その財産状態が税務調査などによつても容易に把握されにくい状況にあるのを利用して、昭和四一年一月ごろ被告人方に実地調査に訪れた税務署係員に対し、建売住宅の建築販売等は東海建設工業株式会社の行なつていることであつて、自己はその一使用人にすぎない旨の虚言を申し向け、一方、自己の取引先に対しその取引額について帳簿の改ざんを働きかけるなどしたうえ、昭和四二年三月八日、北九州市八幡区西本町四丁目一四番一六号所在の所轄八幡税務署において、同税務署長に対し、昭和四一年における被告人の所得金額が不動産所得二二七、二〇〇円および給与所得三五四、〇〇〇円の合計五八一、二〇〇円であつて、これに対する所得税額が一七、三七〇円である旨の、さらに同月一四日、同税務署において、同税務署長に対し、被告人の妻岩田広子名義で昭和四一年における同女の所得金額が営業所得(ホテル営業によるもの)一二〇、〇〇〇円で、これに対する所得税額が零である旨の、ことさらに虚偽の内容を記載した各所得税確定申告書を提出し、もつて、不正の行為により同年度の正規の所得税額のうち二四、七八二、三二〇円を免れた。
(証拠の標目)
一、被告人の
(1) 当公判廷における供述
(2) 第五回公判調書中の供述部分
(3) 検察官に対する各供述調書
一、大蔵事務官の被告人に対する各質問てん末書
一、被告人作成の各上申書および陳情書
一、証人森芳馬、同吉嶺俊衛、同飯田弘人、同土肥マツ、同軸丸兼二、同鮎川茂彦、同杉原ヒロ子および同末松春義の当公判廷における各供述
一、第一一回および第一二回各公判調書中の証人軸丸千年の供述部分
一、第一三回、第一四回および第一六回各公判調書中の証人岩田広子の供述部分
一、当裁判所の証人中屋守延に対する尋問調書
一、受命裁判官の証人原田隆一に対する尋問調書
一、岩田広子(昭和四五年二月二八日付および同月一九日付)、中村照枝、本多昭夫、軸丸兼二、矢野実夫、浜本実平、三谷弘、下田ヨシコ、隈元功および落合利則の検察官に対する各供述調書
一、大蔵事務官の山本一夫、岩田広子(昭和四二年九月三〇日付、同年八月二四日付、昭和四三年五月二一日付および同年四月一一日付)、王子田実雄、橋口敏靖、川口生江、井上チエ、桑野トキヨ、今村百代、坂本義定、国利晃(二通)、本多昭夫、室園進、村上一、金本富吉、太田博、浜本実平、矢野実夫、井上竹市、飯田弘人(昭和四二年一二月一日付および同年七月一一日付)、岩田安友、三谷弘、山下福吉、岡田憲明、山内勝代、下田ヨシコ、原田隆一(昭和四三年四月九日付)、小石和子(二通)、荒木君代、吉岡清子、山内勇、末松春義(昭和四二年七月一五日付および昭和四三年三月二七日付)ならびに土肥マツ(昭和四二年八月二六日付)に対する各質問てん末書
一、岩田広子作成の確認書
一、楠下淳市、谷原勝義、木下昇一、坂井吉郎、坂本準一、藤谷登、三島慶三、奥川芳寿、井上彬、竹内吉十郎、岡田広登および中山正己のそれぞれ作成した各証明書
一、福田民雄、大川輝親、石橋力、長岡勝利、崎田公一、宮藤某、橋口昌俊、坪井作市、佐々木甚一、萩原哲、末岡辰精、柳原功雄、渋谷貞雄、岡本義則、牟田口キヌエ、林田芳仁、西村又蔵、恒松末光、津曲千早、平石勝美、宮本武正、前田喜太郎、福谷勲、新谷初男、油谷潤治、山本竹吉、新田紀義、分部衛、安本照彦、川畑俊雄、川島政之、岡村竜蔵、斉藤竹松、山田房雄、徳島栄、桃木茂、山下幸雄、江頭健作、志賀直人、中村セキ子、槇田金次郎、小吹光儀、末吉正治、酒井邦治、竹内貞舳、石川修、松下秀雄、脇山多久美、遠藤彰弘、中村幸雄、志方源二、山口敞、木戸美世子、矢野三郎、橋口敏靖、飯田通雄、長元文枝、江藤宇八、大西利一、藤岡諒一、兼利保、佐村貞雄、梶原勇雄、森輝夫、水田正富、山野田重治、進藤正寛、長谷川好道、草野寿(二通)、末森久子、藤本正輝、伊藤砂男、吉田嘉雄、高倉隆義、膳所朝治、徳野広幸、甲斐全市、吉田剛、山口信義、溝口十郎、桑野金雄、井上恭助、岩永中、中村茂太、山崎節夫、山田桂、瀬口勝、後藤寿、松本重雄、新宅俊彦、古賀野四男之、岡崎万亀代、林迂太郎、奥繁見、藤井秋光、平岡唯己、佐藤敏明、小鹿勝勲、岡村未春、小林徹、近藤実、和田春雄および古田正一のそれぞれ作成した各「不動産売買について(回答)」と題する書面
一、湯浅房吉、山崎総裕、森川シゲ子、松川政雄、山下大吉、洞芳五郎、石迫嶋吉、関谷文夫こと反田文夫、恒成秋太郎、佐藤政、五郎丸勝、古城覚、春日興一、上杉省司および麻生岩男のそれぞれ作成した各「不動産売買についての上申書」と題する書面
一、網田省吾、竹下国利、高尾正、勝本繁、吉田喜次郎、増田隆および宮近新二のそれぞれ作成した各「上申書」と題する書面
一、草野寿および甲斐諭のそれぞれ作成した各「売上に関する上申書」と題する書面
一、実政チエ子、白川房次(写)、小野閑郎、荒牧恒一、牛尾文夫、小田チエ、堀川桃枝、岡田義一郎および秦俊一のそれぞれ作成した各「取引に関する上申書」と題する書面
一、大石栄、梶原幾男、衣川勝治、松原良彦、今井悟、国房頼重、渡部薫、溝口守葉、盛国顕司、安藤信夫、山健之助、南勝利、秋吉マツ子、久保田伊勢子、田原積謹、加藤マツエ、辻菊雄、山崎宮市、清水哲男、中西靖雄、前田隆、伊藤智保、大東京火災海上保険株式会社福岡支店および田中正人のそれぞれ作成した各「取引について(回答)」と題する書面
一、高津博司、山佳富郎、岡田久雄および村岡たか子のそれぞれ作成した各「取引について(照会)」と題する書面
一、古子美代子作成の「取引についての上申書」と題する書面
一、中村広彦作成の「岩田春已氏との建築工事請負契約について」と題する書面
一、上村恒儀作成の取引に関する照会回答書
一、呉石政男および渡辺文夫のそれぞれ作成した各「岩田建設株式会社との取引について」と題する書面
一、林一正作成の水道料金の納入状況に関する調査結果回答書
一、小田拓助作成の「工事予納金および臨時栓使用料の収納状況について」と題する書面
一、北九州ダイハツ販売株式会社作成の車輛の販売状況に関する各報告書
一、西亦次郎作成の「車輛の販売価額等について(回答)」と題する書面
一、野尻春生作成の「岩田春己氏関係との取引について」と題する書面
一、木田馨作成の「岩田修明等との取引について」と題する書面
一、小倉電報電話局長作成の「電話加入原簿の写等および使用料金収納状況の証明書提出依頼の回答について」と題する書面
一、戸畑電報電話局長作成の「使用料金収納状況の証明書提出方の依頼について」と題する書面
一、岩田春已代筆者中屋守延作成の「岩田建設および株式会社岩田建設相互住宅の宣伝広告費について」と題する書面
一、岩田洸作成の「広告料の収入について」と題する書面
一、山浦マツ子作成の「回答書」と題する書面
一、田中博実作成の広告料金売上に関する調査結果回答書
一、添田均作成の各「電灯(電力)使用料に関する上申書」と題する書面
一、森雄二作成の「岩田建設等との取引について」と題する書面
一、茅島公吉作成の取引状況に関する調査結果報告書
一、岸忠道作成の「岩田春已との取引について」と題する書面
一、共栄火災海上保険相互会社福岡支社作成の「保険料金収納証明書提出の件」と題する書面
一、興亜火災海上保険株式会社福岡支店長作成の「保険料収納状況の証明書提出について」と題する書面
一、西川守政作成の「賃借料の支払状況について」と題する書面
一、馬来忠男作成の「固定資産税の納付状況について」と題する書面
一、梅沢文夫作成の「保険料金収納状況の証明書提出方依頼について」と題する書面
一、松元三郎および高田輝人のそれぞれ作成した各「財産の評価額について(回答)」と題する書面
一、安増雅美作成の不動産取得税の納付状況にかかる証明書
一、古賀正作成の領収証写
一、各権利証書写
一、室園進作成の「下関市大字彦島字江向の実測図について」と題する書面
一、国税査察官内田実治、同鹿島武人、同古閑甫、同野口司(三通)および同宮崎裕次のそれぞれ作成した各調査報告書
一、大蔵事務官山本秀雄作成の各調査報告書
一、検察事務官入江澄夫作成の電話聴取書
一、登記官早野幸弥認証の各商業登記簿謄本
一、登記官菅祝久認証の商業登記簿謄本
一、押収してある
(1) 所得税確定申告書類一綴(昭和四六年押第一一六号の一)
(2) 所得税確定申告書一枚(同押号の二)
(3) 小型手帳二冊(同押号の三および四)
(4) 収入及び支出計算簿一冊(同押号の五)
(5) 仕入帳一冊(同押号の六)
(6) 売掛帳一冊(同押号の七)
(7) 売掛補助簿一冊(同押号の八)
(8) 給料及び手当帳一冊(同押号の九)
(9) 売掛帳一冊(同押号の一〇)
(10) 得意先元帳一冊(同押号の一一)
(11) 売上帳一冊(同押号の一二)
(12) 経費明細帳一冊(同押号の一三)
(13) 岩田建設分収入金明細帳一冊(同押号の一四)
(14) 中型手帳一冊(同押号の一八)
(15) 岩田用ノート一冊(同押号の一九)
(16) 金銭出納帳一冊(同押号の二〇)
(17) 買掛帳一冊(同押号の二一)
(18) 海老津現場工事簿二冊(同押号の二二および二三)
(19) 若戸現場工事簿一冊(同押号の二四)
(20) 仕入帳一冊(同押号の二五)
(21) 元帳一冊(同押号の二六)
(22) 金銭出納帳一冊(同押号の二七)
(23) 公租公課領収証綴一綴(同押号の二八)
(24) 売上帳二冊(同押号の二九および三一)
(25) 元帳一冊(同押号の三〇)
(26) 仕入帳一冊(同押号の三二)
(27) 給料明細書一冊(同押号の三三)
(28) 金銭出納帳一冊(同押号の三四)
(29) 請求書控帳一冊(同押号の三五)
(30) 請求書綴一綴(同押号の三六)
(31) 関西ブロツク日報一冊(同押号の三七)
(32) 仕入帳一冊(同押号の三八)
(33) 材料仕入帳一冊(同押号の四〇)
(34) 給料明細帳一冊(同押号の四一)
(35) 売上メモ一枚(同押号の四二)
(36) 売上メモ綴一綴(同押号の四三)
(37) 普通預金元帳一綴(同押号の四四)
(38) 金銭出納帳一冊(同押号の四五)
(39) 納品書・請求書・領収証綴一綴(同押号の四六)
(40) 家賃帳一冊(同押号の四七)
(41) 賃貸借契約書綴一綴(同押号の四八)
(42) 貸室賃貸借契約書(証)三枚(同押号の四九、五〇および五一)
(43) 金銭出納帳一冊(同押号の五二)
(44) 和解調書正本一通(同押号の五四)
(45) 手形控綴一綴(同押号の五五)
(46) 東海建設工業(株)元帳一冊(同押号の五六)
(47) 三鷹産業分金銭出納帳一冊(同押号の五七)
(48) 土地売買契約書一通(同押号の六〇)
(49) 不動産売買契約証書一通(同押号の六一)
(50) 財産目録一通(同押号の六二)
(51) 権利証書二通(同押号の六三および六四)
(52) 手形受払帳一冊(同押号の六五)
(確定裁判)
被告人は、昭和四四年三月一三日に熊本地方裁判所において、恐喝罪により懲役一年(三年間執行猶予)に処する旨の裁判を受け、右裁判は昭和四六年六月二三日に確定(昭和四六年六月一七日上告棄却決定)したものであるが、右事実は、被告人の当公判廷における供述および検察事務官松尾澄男作成の前科調書によつてこれを認める。
(法令の適用)
被告人の判示所為は、所得税法二三八条一項に該当するところ、右は前記確定裁判を経た罪と刑法四五条後段の併合罪の関係にあるから、同法五〇条によりまだ裁判を経ない判示罪についてさらに処断することとし、その所定刑のうち懲役刑および罰金刑を併科することとし、その所定刑期の範囲内および罰金額については情状により所得税法二三八条二項を適用して免れた所得税の額範囲内において被告人を懲役六月および罰金六、〇〇〇、〇〇〇円に処し、刑法一八条により右罰金を完納することができないときは金六〇、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予し、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項本文に従いこれを全部被告人の負担とする。
よつて、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松本時夫 裁判官 早船嘉一 裁判官 清田嘉一)
別紙(一) 各事業およびこれによる所得金額一覧表
<省略>
<省略>
注 △印は損失を示す。
別紙(二) 貸アパート業等およびこれによる所得金額一覧表
<省略>
別紙(三) その他の所得金額一覧表
<省略>
注 △印は損失を示す。